みなさんの顔かたち、性格が違うように、障がいも十人十色、百人百色です。同じ障がい(傷病名)だから、症状も同一だということは絶対にありえません。
事実、私と同じ脊髄損傷(胸椎10番)、完全麻痺の方でも、症状は異なります。その他、年齢や性別、身長体重、利き手、運動神経、性格、受傷した時期やどこのリハビリ病院かによっても、できることとできないこと、つまり*ADLは大きく異なります。これは、高齢者にとっても同じことが言えるのではないでしょうか。
このように、一つとして同じ障がいがないのに、画一化されたバリアフリーの基準に則って、設計・リフォームをするのはナンセンスです。当事者の身体状況に応じて、計画していくことが必須だと考えていますので、細かいヒアリングが重要なのです。
*ADL Activities of Daily Living 日常生活動作
【1】完璧なバリアフリーは存在しない
バリアフリーというワードは、当たり前のように、広く日本国内で知られるようになりましたが、私は「バリアフリー」に違和感を覚えます。その理由を幾つかの例を挙げて説明します。
(1)点字ブロック
視覚障害の方にとっては、点字ブロックは必要不可欠なものである一方、車いすユーザーやベビーカー利用者、高齢者からすると、その凸凹がバリアと感じることがあります。
(2)スロープ
スロープはバリアフリーだと思われることが多いですが、脳梗塞や脳卒中により、片麻痺(身体の片側だけに麻痺が残る)で歩行可能の方の中には、距離の長いスロープよりも階段に手摺が付いている方が良い場合もあります。
(3)廊下幅
車いすを利用する方の場合は、通行するのに通常より幅広な廊下の方が良いのですが、高齢者の場合は、転倒する可能性があることから、すぐに壁や手摺に手を置けるよう、廊下幅が狭い方が良い場合があります。
この他、例を挙げればキリがありませんが、人によってバリアフリーの定義がみな違うのです。つまり、誰にでも優しい完璧なバリアフリーは作ることができないですし、存在しないのです。
しかし、住宅はパーソナルな空間だからこそ、しっかりと当事者や一緒に住まうご家族の気持ちや想いに寄り添い、一つずつ丁寧にヒアリングし、形にしていくことが大切なのです。
0.5cmでも使用感が異なる
バリアフリーコンサルティング業を開始してから、様々な方の住宅改修を担当させて頂きましたが、すべてのケースで共通していたことがありましたので、ご紹介します。
それは、プランニング時に決めた手摺の位置が、施工時の最終確認の際に、必ず数cmズレるということです。
弊社のモデルルームには、車いす対応トイレが2種類あり、そこで何度も、実際に車いすから便座に移乗して頂き、手摺の位置や便座の高さなどを検証します。それでも、プランニング時と施工時でズレが生じる確率が100%なのです。
現在弊社では、プランニング時に手摺を設置するであろうおおよその高さと、必 要なスペースだけを決め、施工時に実際に便座に腰掛けて頂きながら、設備機器を設置していくことにしています。手摺一つをとっても、自分の身体に合った ものでないと、無理が重なり負担が蓄積することで、後々悪影響が出てきてしまうのです。たった0.5cmでもこだわる理由があります。
適切な機器を選ぶ(トイレ編)
(1)手摺の種類
トイレ内で使用される手摺だけでも、L字型、T字型、I型、波型、跳ね上げ式、スイング式…。様々な種類の手摺があります。
立ち上がり動作のできる人には、L字型や波型、垂直方向のI型手摺があることで、立ち上がり動作を手助けしてくれます。
スペースが狭いトイレには、跳ね上げ式を採用することで、便座への移乗や介助者のスペース確保に有効です。体幹に不安がある方の場合は、可動式の手摺よりも固定式の手摺の方が安心感を得られます。
(2)便器の種類
一般的な便器の便座高は39~41cmとなっています。これに対し、車いす対応の便器の場合、便座高が45cm程度に設定されているのをご存知でしょうか。理由としては幾つかありますが、代表的な理由を2つご紹介します。
一つは、車いすの座面の高さが約45cmになっている為、便座高が同じになっていることでスライドしながら安全に移乗できるからです。
もう一つの理由は、便座高を高くすることで、膝の角度が鈍角になり、立ち上がり動作が容易になるからです。
(3)左右のアプローチ
トイレに移乗する際、左右どちら側からアプローチするかを確認する必要があります。左半身麻痺の方に、左側にアプローチするようなプランを提示しても無意味です。
では、両方向からアプローチできるように真ん中に配置すれば…という意見もありますが、その場合、トイレに使うスペースが約1.5倍は必要になりますし、L字型の手摺が設置できなくなります。
どちら側からでも移乗できる方もいるのも事実ですが、得意な方向は誰にでもあるものです。
このように、「車いすユーザーだから、車いす(バリアフリー)対応商品群から選ぶ。」という選択の仕方ではなく、身体状況や可能動作に応じて、設備機器を選ぶ必要があります。
また、限られたスペースや予算で、より効果的な提案をすることが求められるのです。
トイレに移乗する際、左右どちら側からアプローチするかを確認する必要があります
障がいを正しく理解し、当事者の動作を観察し、意見に耳を傾けることで、みんなが笑顔で楽しく暮らせる住まいが実現できると思います。
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