私が獣医師になって約20年、飼主の方の動物に対する考え方が次第に変化してきました。以前は、外飼いが多く、フィラリア寄生やジステンパー感染、交通事故など日常茶飯事でした。現在は、環境がよくなり、予防獣医学(ワクチン接種、フィラリア予防、そして避妊・去勢手術など)も浸透し、動物達にも高齢化の波が押し寄せております。
家族の一員となった動物達に少しでも健康で長生きして欲しいと思うのは、当然のことと言えるでしょう。そこで今回、臨床医が日々の診療を通して、感じた事をお話したいと思います。
かかりつけの動物病院を作る
かかりつけ動物病院を持つ意味は、“動物の健康な時の状態”と“飼主の方の動物に対する考え方” を知っていてもらうことにあると思います。当然ですが、動物達の普段の様子がわからなければ、異常はわかりません。アレルギー体質なのか、飲み薬が苦手なのかなど、動物達の多様な体質や性格を事前に知っていてもらうことは非常に大切です。また、飼主の方が検査や治療に対して積極的なのか否かなどを主治医が把握していることは、治療方針を立てる上で重要なことだと思います。
そこで“どんな動物病院をかかりつけにしたらよいか?”です。
動物病院選びの基準は、“家族や友人の紹介や口コミ”を参考にしたという意見が多いようです。主治医にしたい動物病院の獣医師が“飼主の方のお話に真摯に耳を傾け”、“動物を丁寧に触り”、“聴診や検温など基本的な診察をしている”か否かは重要なポイントになります。また、“獣医師との相性やスタッフの対応”も非常に大切な判断材料です。 どんな職業でも“技術力と接遇力のバランス”がとても大切な事だからです。
初めての動物病院に行った時には、獣医師に気になることを質問したり、簡単な診察を受けてみるとよいでしょう。また、ワクチン接種やフィラリア予防などを通して、“常日頃から獣医師と積極的にコミュニケ―ション”をとり、良好な関係を築いておくことも大切です。獣医師も皆様方と同じ人間です。頻繁に来院して戴く馴染みの飼主の方や動物達との信頼関係を損ねるような事はしないものです。
思い込みは重大な過失を招く
病気には、“3つの段階“があります。
- (1)検査では検出不可能な段階
- (2)症状は無いが検査で異常が発見される段階
- (3)既に病気が発症している段階
多くの飼主様から、「昨日までは何ともなかったのに、こんなに急に悪化するの?」という質問を受けます。動物は言葉が話せませんので、たいてい、“(3)の段階“で来院します。つまり、ある程度進行した状態になっているのです。「我が家の動物は、まだ10歳だし、食事もよく食べるから大丈夫!」という思い込みが、時に病気の見逃しを招きます。
そこで大切なことが“(2)の段階”で病気を早期発見する健康診断の有効利用です。勿論、健康診断で発見される病期にも、“比較的初期の段階”から“かなり進行して発症寸前の段階”まで大きな幅がございます。動物は1年間で4歳年をとると言われますので、なるべく初期の段階でみつけるためには、最低でも“年に1回以上の健康診断”が必要であることがおわかり戴けると思います。
健康診断の内容は、血液・尿・便・レントゲン・超音波検査などが一般的です。年齢や犬種・猫種などに応じて主治医と相談しながら項目を選択すると良いでしょう。動物が健康な時に検査をして基準値を調べておくと、病気の時と比較することが出来、獣医師としては有益な情報となります。
また、小型犬には心臓病が多く、ある種の猫には肥大型心筋症が好発し、高齢では腎不全が散見されます。種類などにより起こる可能性の高い病気を、狙い撃ちして早期発見する健康診断も重要だと思います。
初めての方にも、簡単で安価に出来るのが、“尿検査”です。尿検査では、膀胱炎、腎臓病、糖尿病などがわかります。特に、寒くなるこれからの時期、泌尿器系疾患が多くなります。先ずは、簡易だが有益な尿検査などから、健康診断から始められてはいかがでしょうか?
私は、心配性なので健康診断などの検査をよく受けます。
ところが、知り合いの人間の医師は、「健康診断で病気が見つかったら、その先どうなるかが分かるから受けない」と言います。
動物に健康診断を受けさせるかどうかは飼主の方の考え方に依存するようです。
動物と飼主様は運命共同体です。
この文章を読まれたのも何かの御縁ですので、“健康診断を受けるかどうか”についてからでも、ご家族で話し合うきっかけになれば幸いです。
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